大手損保会社がAIを活用した損害サービスの高度化に取り組んでいる。東京海上日動は今年3月、ドラレコで取得した画像をもとに、AIが事故状況を自動再現し、自動車事故の責任割合を算出する新機能を導入。三井住友海上は昨年5月からAIがドラレコ映像を分析して、事故状況を図や文章で再現するシステムを導入している。
万が一の際の事故対応は、損保会社の重要な業務であり、迅速で正確な保険金支払いに直結するため各社が知恵を絞っている。代理店系の大手損保は、保険料ではダイレクト系損保に太刀打ちできないため、保険金支払いを含めた損害サービスの充実は差別化の重要な要素となっている。
MS&ADグループの三井住友海上はイスラエルのスタートアップ企業のネクサーと提携したシステムを昨年5月から施行導入し、現在本格的に展開している。
ドラレコ付帯の「GK 見守るクルマの保険」の契約者が事故に遭った場合、記録してある映像をもとにAIが事故状況を自動的に図や文章を示すことができる。従来、事故発生時には顧客は「道路状況」や「信号機の色」「交通標識の有無」など自分の記憶をもとに保険会社に説明する必要があり、それが契約者の大きなストレスにもなっていた。同システムでは、AIが数千件の裁判例から同様の事故を自動検索し、責任割合も自動提示する機能との連携も可能で、迅速な過失割合の算定は事故解決をスムーズにする力になる。
東京海上日動も今年3月、AI分析に強みを持つALBERT社と提携し、ドラレコが取得した画像や、ドラレコの加速度センサー・GPSの情報をもとに、事故の状況をAIが解析して、自動車事故の責任割合を算出する機能を開発した。同社のドラレコ特約付帯の自動車保険は2019年12月時点で業界最多の約36.5万件の契約があり、保険契約者向けにこのサービスを導入した。
あいおいニッセイ同和はテレマティクス技術を活用
三井住友海上と同じMS&ADグループのあいおいニッセイ同和損保は最先端のテレマティクス技術を活用した「テレマティクス損害サービスシステム」を開発し、2020年度中の導入を目指している。車載しているテレマティクス機器から得られるデジタルデータをもとに、事故連絡を自動受信したり、事故状況のビジュアル化やドラレコデータから責任割合の自動算出などを目指す。その実現のため、野村総研やSCSK,富士通、大日本印刷、インテリジェント ウェイブ、日本アイ・ビー・エム、SBIフィナンシャルなどパートナー企業の協力を得ている。実際に顧客に提供することになれば、事故対応のかなりの部分が自動化され、従来の損害サービスに革新をもたらすだろう。
一方、自動車事故の際の修理金額の算出にAIを活用する動きも出ている。損保ジャパンは昨年11月から、顧客が撮影した自動車の画像をAIで解析して、リアルタイムで自動車の概算見積金額を算出するサービスを開始した。開発についてはAI修理見積もりシステムのイードリーマー、チャットシステムのオプトと共同で行った。同サービスで画像の撮影から約30秒で概算見積金額が提示でき、保険金支払い手続きも最短30分程度に短縮できるという。
デジタル技術の革新により、損保各社の損害サービスは今後もいっそう高度化していくとみられる。