日本消費者協会の伊藤健一部長に「わかりやすさの本質」を聞く(追跡「UCDAアワード2014」③)
- 2014/9/16
- 業界最前線
一般財団法人日本消費者協会 教育啓発部の伊藤健一部長に聞く
企業は、商品・サービスが「安全」なこと、内容が「正しいこと」「間違いがないこと」を消費者に約束しなくてはいけない。その情報が「わかりやすく」デザインされているかは、UCDAが保証する。これが「UCDAアワード2014」のテーマ、「情報品質の約束と保証」だ。食品偽装や偽表示など消費者を欺く事件が今日もメディアで報じられている。かつて保険業界では、不払い問題があった。企業や組織が消費者の厳しい視線を受けている。それでも問題はあとを絶たない。消費者が意見を発信する社会そして高齢社会における企業・組織のコミュニケーションとは。UCDAアワードの評価に参加している一般財団法人日本消費者協会 教育啓発部 部長の伊藤健一氏に話を聞いた。
――日本消費者協会とはどのような活動をしている団体ですか。
伊藤 日本消費者協会は、製品やサービスの正しい情報を消費者に提供する「情報提供型」の消費者団体のパイオニアと言えるでしょう。そして、その活動のリーダーになれる人材の育成が、現在の当協会の中心的な活動となっています。 かつて、当協会では消費者に正しい情報を提供するために、「商品テスト」を活動の中心に据えていました。米国で700万部以上の発行部数を誇る「コンシューマーリポート」を参考に、商品テストの結果を公表する「月刊消費者」という雑誌を長年発行してきたのです。消費者が商品を選択する基準にもなるうえ、消費者の商品選択力を育てるとメーカーの技術力が上がることもあり、通産省(現経済産業省)から助成金をいただきながら、刊行していました。 その後、日本のメーカーの技術力が世界でも高い水準になったこともあり、「月刊消費者」は一時休刊となりましたが、今でも消費者問題の啓発事業は続けています。人材育成でも、消費者リーダーである「消費生活コンサルタント」と企業の窓口担当者向けの「コンシューマー・オフィサー」養成のための各種講座や、地方自治体の消費者行政の支援、啓発に向けた講演やセミナーを随時開催しています。
保険は情報が商品そのもの
――UCDAアワードの第1回目から協力されていますが、そのきっかけについて教えて下さい。
伊藤 形のある家電製品などと違って、保険などの金融商品は情報が商品そのものです。商品を説明するパンフレットや申込書、通知物などは、「いったい何者なのか」をまず伝えるための大切な役割があると考えています。そんな中、保険会社から消費者への情報伝達を「わかりやすく」改善する活動をしているUCDAさんのことを知りました。当協会のDNAでもある「第三者機関が商品テストをして商品選択の基準を示す」という活動内容に非常に近いものあると思ったのです。 そこでUCDAの第1回アワードを、「月刊消費者」に特集記事で紹介しました。その時からのお付き合いがスタートしています。アワードでは、コミュニケーションの専門家がわかりやすさの基準をもとに評価をしていますが、私たちの役割は消費者の立場・目線で評価することです。毎回、当協会の消費生活コンサルタントの資格を持ったメンバーが、UCDAの消費者組織であるアナザーボイスと一緒に、アワードの評価に参加しています。
――最近の保険業界について、どのように感じていますか。
伊藤 金融機関がさまざまな金融商品を扱うようになりました。保険もそのひとつですが、投資信託と保険をなぜ同じ土俵の上に載せるのかという意見もあります。当然保険も営業戦略上の商品として、銀行員が消費者に対していろいろな説明するわけです。「資金を今のままにしておくともったいない」というセールストークをよく聞きますが、その金融商品が良くわかっていないのに、「みんなが言っているから自分も」というように購入してしまう傾向もあります。 実は、メリットとデメリットをきちんと把握して購入しないと、あとで「そんなことは聞いていなかった」ということになりかねません。良くわからない商品に対して、「いまがチャンス」という言葉に乗ってしまってはいけない。どんなものにもデメリットがあるという思考で、今買うリスクと今買わないリスクを冷めた目で考えられるようになることが必要です。 それにはもちろん売る側が、まずデメリット情報をわかりやすく伝えてくれないといけませんね。「良い」も「悪い」も含めた、判断可能な情報が十分そろわなければ、「正しい情報提供」にはならないわけです。生命保険はその機能を発揮するタイミングがずっと先になるから、わからなくてもすぐに問題が表面に出てこない。かつて問題になった変額年金などはいい例でしたね。
――今回のUCDAアワード2014のテーマ「情報品質の約束と保証」についてはどう評価していますか。
伊藤 最近は偽装表示や製造過程での問題が数多く出ています。企業だけではなく、国や行政の責任も問われています。企業・組織のコンプライアンスが試されている時代だと思います。今こそ、企業や組織は、商品や提供するサービスが「正しいこと」「間違いがないこと」を消費者に約束しなければいけません。だからこそ、このテーマは重要だと思います。 当協会もUCDAの認証制度の「認証委員会」のメンバーとして参加して、私たちが情報の「正しさ」について評価します。そして、その情報が「わかりやすく」デザインされているかをUCDAが評価します。UCDAの基準では「わかりやすい」との評価でも、消費者に不利益をもたらす可能性ありと判断すれば、認証を却下する場合もあります。
情報の「正しさ」「わかりやすさ」を商品選択の基準に
――今後の活動についてお願いします。 伊藤 消費者のリーダーとしての消費生活コンサルタントの育成と、企業の中で消費者の視点を生かす活動をするコンシューマー・オフィサー の養成を通じて、企業や行政と消費者双方の役に立ちたいと思います。各地の消費生活センターで消費生活コンサルタントが働いていますが、これからもUCDAと、保険や金融業界だけでなく行政や製造業界の「情報の約束と保証」に貢献できたらと思います。これからは、商品やサービスを選ぶ基準の中に情報の「正しさ」「わかりやすさ」を必須とさせることを目指したいですね。
消費者の心をつかむには、消費者がストレスや誤解なく企業とコミュニケーションをできるようなサービスを提供する必要があると思う。保険業界に求められている変革は、いいイメージ作りではなく、足元のコミュニケーションではないだろうか。