住友生命、健康増進型保険「Vitality」で行動変容の成果

「この生命保険に加入すれば、入院のリスクが減ります」

将来、生命保険各社による、こんなPR合戦が起きる時代が来るかもしれない。

住友生命は昨年7月に発売した日本初の本格的な健康増進型保険「Vitality(バイタリティ)」の加入者に、血圧の数値が下がったりするなどの効果が出ていると発表した。

健康増進型保険とは、契約者の健康状態や健康につながる活動などによって保険料が変動する生命保険商品のことで、年齢や性別が同じであれば、原則的に保険料が同じである従来型の保険商品と大きく異なる。

病気やケガ、万が一の死亡などのリスクに対する保障を得るために加入するのが生命保険だったが、これからは「健康になるために保険に入る」ことが増えるかもしれない。

住友生命はバイタリティの発売からちょうど1年が経過した今年7月、加入から1カ月以上経過した契約者約15万人にメールでのアンケートを実施。約1万6000人から回答を得た。

結果は、約9割の人が「加入前よりも健康を意識するようになった」と回答。また、バイタリティに加入して「生活の質が高まったように感じる」と答えた人は約8割にのぼったという。

「想像以上の結果が得られた。前向きな感想がとても多く、あらためてバイタリティを日本で展開してよかったと思っている」と住友生命の雨宮大輔・Vitality推進室長は語る。

健康に対する意識だけでなく、実際の行動や健康状態にも大きな変化が見られたという。例えば、スマホアプリなどのツールを使って加入者データを収集したところ、1日当たり平均歩数は加入初月の平均歩数8260歩から、2カ月目以降は9655歩へ約17%増加した。

もともとよく歩く人たちがさらに歩いたのではなく、加入時の1日当たりの平均歩数が少なかった人ほど上昇幅は大きく、5000歩以下の人たちの歩数は平均で30%以上伸びた。

加入時の最高血圧が140mmHg以上だった人たちのうち、10㎜Hg以上も血圧が下がった人は約48%にのぼった。日本高血圧学会の『高血圧治療ガイドライン2019』によると、高血圧とされる基準値は140/90mmHGで、75歳未満の成人の降圧目標は130/80mmHG未満だ。

保険に付帯する健康プログラム「バイタリティ」

このほか、BMIや血糖、コレステロール、尿タンパクなどの数値についても、バイタリティ加入後に改善した人もいたが、「まだ集計件数が少なく、統計的に有意な差があるとは言い切れない」(樋口洋介・Vitality企画室長)と話す。

正確に言うと、バイタリティは保険商品そのものではなく、あくまで保険に付帯する健康プログラムだ。住友生命の就労不能・介護保障の「1UP」や医療保障の「ドクターGO」などの生命保険商品に付帯して、月額880円(税込み)を払って加入する。加入すると保険料が15%割り引かれるうえ、2年目以降の保険料は、健康増進への取り組みや結果などに応じて獲得したポイントに基づき、さらに割り引きされる。もちろん、取り組みが不十分であれば保険料は割り増しになることもある。

保険料の割引を左右するのは、「オンラインの健康状態のチェック」「健康診断書提出」「がん検診や予防接種の実施」「歩数や心拍数」「フィットネスジムへの入会」「ウォーキングイベントなどへの参加」などで、自分の健康状態をチェックしたり、健康状態を改善したりする取り組みが評価の対象となっている。

1年間の累計ポイントに基づき、加入者は、「ゴールド(割引率2%)」「シルバー(同1%)」「ブロンズ(変動なし)」「ブルー(割増率2%)の4つにランク分けされ、2年目以降の保険料が決まる(保険料の割り増しは3年目以降から)。保険料は毎年見直され、割引率は最大30%になるという。

さらに、バイタリティ加入者は、累計ポイントに基づき判定されるランクに応じて、住友生命のパートナー企業が提供する特典(リワード)を活用できる仕組みもある。パートナー企業はソフトバンクやローソン、スターバックスコーヒーなど11社(2019年9月末時点)で、各社の商品やサービスの割引特典を受けられる。

ただ、前出の雨宮氏は「行動変容をもっとも後押ししているのは、アクティブチャレンジの仕組みだ」と強調する。

バイタリティは血圧改善に役立ったのか

アクティブチャレンジとは、1週間ごとに設定した目標ポイントを達成することで、さまざまな特典が受けられる短期プログラムのこと。歩数や心拍数の上昇などの週間目標を達成すれば、スマホアプリ上のルーレットを回して、スターバックスのドリンクチケットなどが毎週当たる。健康増進活動を長続きさせるため、短期的な目標のご褒美をあげることで、活動への意欲を高めてもらう狙いがある。

バイタリティは、もともとは南アフリカのディスカバリー社が1996年に開発した健康増進プログラムで、すでに世界21カ国で1000万人以上に利用が広がっている。国ごとに1社と単独契約を結ぶのが同社の方針で、日本では住友生命が唯一の提携企業だ。2018年7月の販売開始以来、1年間で約31万人(2019年9月末)が加入した。

ただ、今回の平均歩数の増加や血圧値の低下だけをもって、「バイタリティ加入で高血圧が改善された」とは言い切れない。減塩など食生活の見直しや禁煙など、血圧を低下させる要因はさまざまだからだ。

すでに20年以上にわたってバイタリティが提供されている南アフリカでは、加入者の疾病の罹患率や死亡率などが低下している。しかも、健康増進への取り組みで獲得できるポイントが多い人ほど、長く健康を維持できているという。

こうしたデータがあるからこそ、住友生命は日本でバイタリティを展開することを決断し、金融庁からも認可を取得することができた。住友生命の橋本雅博社長は「歩数と疾病率の相関関係のデータなどは、日本の保険会社にも健康保険組合にもどこにも存在しない。ディスカバリー社との提携によって大きな優位性を手に入れた」と語る。

日本で「バイタリティが成功した」と言い切るには、加入者に継続的に健康増進活動に取り組んでもらう必要がある。そのためには、アクティブチャレンジの内容充実など、プログラムの中身をより魅力あるものにしていくことが欠かせない。現在11社(2020年春から13社)にとどまるパートナー企業について、「スーパーマーケットやドラッグストアなど、より日常生活に密着した業態との提携も検討している」と橋本社長は話す。

保険各社は健康増進型保険の開発を進める

住友生命以外の生保各社も近年、健康増進型保険の開発を進めている。加入時に健康診断書を提出すれば保険料が安くなるシンプルな仕組みから、ウェアラブル端末などを使って保険料を変動させる商品までさまざまだ。

各社がこうした商品の開発を進めるのは、保険加入者の病気や死亡などのリスクが減れば、保険会社の保険金・給付金の支払いも減るからだ。健康な人が増えれば、国の医療費の削減にもつながる。従来型の保険が「リスクに対する備え」であるのに対して、健康増進型保険は病気などの「リスクを減らす」のが特徴だ。

ただ、その実現に向けたハードルは高い。病気のリスクを減らすには、日々の行動や習慣を変える必要があるが、いったん身につけた生活習慣や行動を変えるのは容易ではない。変わったとしても、それを持続させるのはもっと難しい。

健康増進型保険は生保会社にとってリスクもある。将来の保険金や給付金の支払額が減ることを見越して、健康リスクが低いと判断した人の保険料を割り引いているが、加入者の健康増進効果が想定以下だったり、保険契約の獲得が計画を下回れば、保険収支は悪化する。新しいタイプの商品だけにシステム開発や広告宣伝にかかるコストも小さくないはずだ。

ネット上にはバイタリティ愛好家のコミュニティが生まれ、SNSを通じて前向きに健康増進に取り組む様子がうかがえる。加入者から「バイタリティが好き」という声もあがり、「特定の保険商品を指して、『好き』と言われることなど、これまでは考えられなかった」(雨宮氏)というほどだ。

これまで病気やケガ、死亡など、ネガティブなリスクに対して保障を提供するのが中心だった保険会社の役割が変わるのか。健康増進型保険は、従来の保険商品に対するイメージを覆す可能性を秘めている。

(東洋経済:高見和也記者)

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