損保ジャパン日本興亜ヘルスケアサービスが「メンタルヘルス対策と産業医」をテーマにセミナー開催

重要性高まる従業員のメンタルヘルス対策

 多くの企業にとってメンタルヘルス対策は重要な経営課題だ。今国会で労働安全衛生法の改正案が可決されれば、今後、従業員50人以上の事業所にストレスチェックが義務付けられる可能性が高い。こうした中、損保ジャパン日本興亜ヘルスケアサービス(今井達也代表取締役社長)と損保ジャパン(櫻田謙悟取締役社長)、日本興亜損保(二宮雅也取締役社長)は6月4日、損保ジャパン本社ビルで、「時代が求めるメンタルヘルス対策と産業医」と題するセミナーを開催した。

損保ジャパン日本興亜ヘルスケアサービス  今井達也社長

損保ジャパン日本興亜ヘルスケアサービス  今井達也社長

冒頭あいさつした損保ジャパン日本興亜ヘルスケアサービスの今井達也代表取締役社長は、「従業員のメンタルヘルス対策の重要性が年々増しており、労働安全衛生法など法的な観点からも、企業にとって産業医との密接な連携は不可欠です。このセミナーで皆さまが気づきを得られれば幸いです」とセミナーの狙いと主旨を説明した。当日は企業の人事・労務部門の責任者など約250名が参加した。

セミナーの第1部では、「精神科を専門とする産業医はどんな仕事をしているのですか?~職場と医療はどのような連携をすればよいのか~」と題して、愛知県刈谷市に本拠を置く、世界的にも有名な大手自動車部品製造会社、デンソーの産業医を務める精神科医、吉田契造氏が講演した。

吉田契造氏

吉田契造氏

吉田氏はまず、臨床医と産業医の違いを説明。「臨床医の職務は患者の病状改善のためにあらゆる手段を尽くすことにあるのに対して、産業医の本務は病気の治療ではない。例えばうつ病を発症した従業員に、このまま仕事を続けさせるべきか休ませるべきかについて、従業員(患者)と企業の双方の事情を鑑みながら、企業に対して意見を申し述べることにある」と述べた。

同氏は続けて「こうした役割や立場の相違から、従業員の主治医(臨床医)と産業医では、病状の所見や治療方針についての見解が異なることもあり、意見交換が必要になる場面も多々ある。ごく短い診療時間で患者と接する主治医に対し、長時間にわたって様子を観察している産業医が持っている情報は質量ともに確かであり、これを主治医に伝えて治療方針に反映してもらうことによって、治療効果が上がるケースも珍しくない」と強調する。

続いて吉田氏は、デンソーで実践している復職プログラムの詳細を紹介。同社では、復職を希望する従業員の健康状態が、本当に就労が可能なまでに回復しているのかどうかを見極めるために、週5日間、図書館に通って一定時間滞在してもらいながら、生活記録や日記を提出してもらい、これを精査した上で復職可能かどうかを判断している。さらに復職した後も、すぐに通常の仕事を任せるのではなく、40%ぐらいの負荷から始めて、半年ほどかけて完全復帰を目指すという。復職は決して簡単ではなく、主治医や上司、人事などと連携を図りながら慎重に進める必要があるからだ。

「メンタルヘルスの施策が実効性を発揮するには、その根底に、従業員に対する真の配慮がなければならない」と吉田氏は最後に指摘した。

復職支援の充実のため外部専門機関と連携

第2部の講師を務めたのは、協和発酵キリン人事部・制度運用グループ長の遠矢泰士氏。「事業場内外資源を融合させたメンタルヘルス対策」と題して、企業人事部から見た産業医の役割と、外部専門機関と連携する意義について講演した。

遠矢泰士氏

遠矢泰士氏

同社では、旧協和発酵工業時代の2006年から、メンタルヘルス活動方針を打ち立てて取り組みに着手している。心の健康診断の定期的な実施や、ライン長へのメンタル研修の実施のほか、社内の産業カウンセラー養成にも力を入れ、現在、50名強のカウンセラーを擁している。

 

2008年にはキリンファーマと合併。2010年に新人事制度が制定されるなど社内環境が変化し、日本の経済環境も変わる中、メンタル不調者が増加傾向となった。メンタル不調の「予防」「早期対応」「適切対応」に加えて、「復職支援」の面では合理性のある復職判定が課題として浮上。一方で、不調を訴える社員に対して、同じ社員である社内の産業カウンセラーが対応することの限界も見えていたため、損保ジャパン日本興亜ヘルスケアサービスと協力体制を組むことにより、施策の強化を図ることとした。その結果、一次予防、二次予防、三次予防のそれぞれでコストパフォーマンスの高いメンタルヘルス対策を講じることができるようになったという。

同社の産業医は現在、本社および事業場におり、職場巡視やストレスチェックデータを活用したメンタル不調の早期発見、早期対応による適切な指導などに努めている。

求められるのは「リスクを低減する」産業医

第3部では、産業医科大学産業衛生教授の浜口伝博氏が、「労働安全衛生法改正とこれからの産業医」として、ストレスチェック義務化への動きを踏まえ、企業と産業医との連携をテーマに講演した。

浜口伝博氏

浜口伝博氏

「ストレスチェック等の取り組み」は、2013年4月にスタートした厚生労働省の第12次労働災害防止計画の中に盛り込まれており、労働安全衛生法の改正案が今国会で成立すれば、産業医がいる従業員50人以上の事業所にストレスチェックの実施が義務付けられる。浜口氏は「メンタルヘルス不調の一次予防、つまり未然防止を目的として実施するもので、メンタルヘルス不調者の発見が一義的な目的ではない。ストレスチェックの結果から、その職場にどのようなストレスが存在するのか、どのように変えるべきかを読み取り、変えられるところから変えていくことこそが重要だ」と強調した。

同氏は最後に、「リスクを指摘したり、管理したりすることにとどまらず、リスクを低減する産業医こそが今、求められている」と述べて講演を終えた。

「企業を良くしたい」気持ちを共有する

セミナーの最後には「人事戦略としてのメンタルヘルスと産業医~産業医と連携しないリスク~」をテーマにパネルディスカッションが行われた。第1~3部で講演した吉田氏、遠矢氏、浜口氏がパネラーとして登壇。主催者である損保ジャパン日本興亜ヘルスケアサービス取締役の矢野一氏がファシリテーターを務めた。

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ディスカッションではまず、メンタルヘルス不調となった従業員がいったん休職し、その後解雇されたために訴訟となった2つの判例をもとに、企業がとるべき対応、産業医と連携することの重要性などについての意見が交わされた。

 次に、産業医と企業の連携をスムーズにするためのポイントが討議され、「最初の段階で、企業が産業医にして欲しいことを明確に伝えること」(遠矢氏)、「企業の課題は何なのかを産業医に対して、明確に提示すること」(吉田氏)、「企業を良くしていきたい、という気持ちを共有し、産業医にどんなことでも話して巻き込んでいくこと」(浜口氏)などの意見が聞かれた。また、医師である吉田氏と浜口氏の2人は、「産業医は専門家ではあるが、その意見を参考にして決定するのはあくまで企業です。産業医任せにするのではなく、産業医をきちんと活用したうえで、最終的な判断は企業側がするべきです」と繰り返し強調した。(坂本潤子)

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