かんぽ生命、強引な「契約乗り換え」の真因

「ありえない…」「考えられない…」。7月10日に開催されたかんぽ生命と日本郵便の謝罪会見をネットの生中継で見ていた生命保険業界の関係者から、口々にそうした声が挙がった。「われわれも、不利益を与える契約の転換や保険金の支払漏れなどの問題を引き起こしたが、十分に反省し顧客目線での改革に取り組んできた。そうした教訓が生きていないのか」―。ある国内生保の広報担当者はそう言ってため息を漏らす。

保険契約の「無保険状態」や「二重契約」など、かんぽ生命とその販売を受託している日本郵便による不適切な保険販売が次々と白日の下に晒されている。現在、公表されている多くの問題は、既存の契約者がすでに加入している保険を解約し、新しい保険や特約に入りなおす「契約乗り換え」に関するものがほとんどだ。

なぜ、両社は問題を噴出させるほど過剰な契約乗り換えに走ったのか―。

マイナス金利下で貯蓄性商品の魅力低下

かんぽ生命は近年、保障性商品の開発・販売に力を入れている。保障性商品とは、従来主力だった「学資保険」「養老保険」など貯蓄性商品とは異なり、死亡保障や医療保障など万が一の死亡、入院・手術など病気の治療に備えた保険を指す。保障重視のため、解約時の返戻金がなかったり、あっても貯蓄性商品よりも少ない。特に2015年11月の同社の株式上場後、2016年に入って決定された日銀のマイナス金利政策の導入で、円建ての貯蓄性商品の魅力が薄れて販売停止などに追い込まれたことなどが直接の引き金となり、全社的な方針として保障性商品に大きく舵を切った。実際、2014〜16年度の新契約件数に占める保障性商品の割合は2割程度だったが、18年度には5割近くになるまで上昇している。

中でも2017年10月に新発売した医療特約の「その日からプラス」(無配当総合医療特約)によって、終身保険・養老保険に医療特約を付加して販売するスタイルが主流になり、「契約乗り換え件数がそれまでより倍増した」(募集管理統括部の平井康幸部長)。長寿化の流れの中で医療保障は顧客ニーズも高かった。収益性の高い第三分野商品の販売は、貯蓄性の保障の落ち込みをカバーするためにも必要不可欠だった。ただ積極的に乗り換え勧奨を行ったことは、数々の問題を引き起こした。たとえば、既存の契約を解約後に、新たな保険に契約しようとしたが、病気など健康状態を理由に引受謝絶となった例があった。(14年4月〜19年3月の申し込み分で約1万5800件)。さらに、既存契約の解約後に、新たな保険に加入したが、病歴を正確に告知しないなどの告知義務違反を問われて保険金が支払われないうえ、契約解除となったケースがあった(同約3100件)。

つまり、契約乗り換えを勧められた結果、「無保険状態」に陥ってしまった顧客が多数いるということだ。その後の同社の調査で、新契約を結んだケースでも旧契約の解約から4〜6か月間の無保険状態があった事例(16年4月〜18年12月で約4万7000件)や、新契約と旧契約が併存する「二重契約状態」もあった(同約2万2000件)ことが明らかになっている。

これらとは別に、同一商品間で乗り換えをした契約の中には、解約して新契約を結ばなくても、「特約切り替え」などの簡易な手続きで、新しい医療保障特約などを付加できたケース(17年10月以降で約5000件)もあったという。具体的には、株式上場後の15年10月~17年9月までにかんぽ生命の保険に加入した顧客は、旧入院特約(「その日から」)から、新医療特約(「その日からプラス」)への切り替えが可能で、契約乗り換えの必要はなかった可能性があるという。

背景には過剰なノルマや評価制度も

無保険状態や二重契約を意図的に作り出した郵便局員の存在も取りざたされており、現在両社では詳細を調査中だ。この問題の背景には、乗り換え契約時にかかわる営業評価制度があると見られている。日本郵便では乗り換え契約は新契約の半分の評価になるが、旧契約の解約から4カ月以上空いていれば新契約と同様に評価される。一方、新契約と旧契約を併存させ、6カ月経過後に旧契約を解約すれば、新規獲得扱いになる。どちらも顧客に不利益になると分かっていながら、現場の判断で解約や新契約の時期をずらしていた疑いが出ている。

そこには、保障性商品の販売シフトを急いだあまり、現場は過剰なノルマが課せられ、郵便局員には契約獲得への強いプレッシャーがかかったことは否定できない。日本郵便の横山邦男社長は7月10日の会見で、「従来の貯蓄性商品の目標に保障性商品をプラスする形での営業目標としていたが、8月以降は保障性商品中心という販売実態に合った目標設定に変えていく」と述べ、郵便局や局員に対する営業目標を全体的に下げる考えであることを明らかにした。 保障性商品へのシフトの中で旧態依然としていたのは評価指標だけではない。販売に関わる制度や商品設計・認可などの点で、ほかの生保会社よりも〝自由度〟を欠いていた面を指摘する声もある。

2007年の郵政民営化で発足したかんぽ生命には、ほかの生保会社の業務(民業)を圧迫しないように、新商品の発売や新規事業の開始に当たって政府の認可が必要な「上乗せ規制」が課されている。たとえば新商品の認可取得の際、他生保は保険業法に沿って金融庁への認可申請だけで済むが、かんぽ生命は郵政民営化法に基づく認可申請も行わなければならない。具体的には、郵政民営化委員会で審議され、その後パブリックコメントで国民の意見も公募したうえで、「他の生保との適正な競争関係を阻害するおそれがない」などと判断されてはじめて認可取得となる。そのため新商品の認可取得の課程はすべて〝ガラス張り〟にされるうえ、パブリックコメントなどで「民業圧迫」などの反対意見が書き込まれることもある。このほか、被保険者一人当たりの加入限度額が原則1000万円(加入後4年経過後で20〜55歳は2000万円)という制約もある。今回、契約乗り換えの引き金となった「医療特約」が単品商品として販売できないことや、旧契約を解約せずに新契約に加入できる「契約転換制度」がないこともこうした規制と無縁ではない。

「郵便局員は商品種類や加入限度額などで、国内生保と比べて明らかに不利な戦いを強いられている。また給与面でも恵まれているとは言えない。こうしたことが過剰な乗り換え勧奨に走らせた要因となっているのではないか」。生保販売現場の事情に詳しい保険・医療・介護ジャーナリストの鬼塚眞子氏はこう指摘する。ただ、「さまざまな制約があるにしろ、それでいて不適切な販売をして良いということにはならない。政府の間接的な出資で守られている側面はあるはずで、そこに甘えがあったのではないか」と冒頭の国内生保の広報担当者は断罪する。

上乗せ規制については、日本郵政の議決権比率が段階的に下がっており、それに伴って徐々に商品開発の自由度は増していた。今年4月の日本郵政によるかんぽ生命株の2次売り出しで比率は64.48%にまで下がった。これを受けて、今年4月、他の生保で当たり前のように扱っている引受基準緩和型商品と先進医療特約の販売にようやくこぎつけた。今後さらに、就業不能や認知症、介護など保障性の新商品の投入を検討していた矢先に今回の不適切募集が露呈した。

新契約も含めて全件調査へ

かんぽ生命と日本郵政は7月から、契約乗り換えに関して引受謝絶となり、現在無保険状態となっている顧客など(約2万4000件)に対して連絡を開始。顧客の希望に応じて、契約の復元などの手続きをする予定だ。無保険の間に被保険者が入院・手術または死亡したりしていた場合は保険金を支払うとしているが、契約の復活には旧契約の解約返戻金をいったん返してもらったうえで、新契約の保険料を支払ってもらう手続きが必要になる。不利益を被った被保険者・契約者がすんなりと納得してくれるか、簡単な話ではない。また二重契約期間があった顧客に対しても、重複期間の保険料の返還などに応じる考えだが、現在明らかになっている契約乗り換えに関しての不適切な販売の約9万件が今後さらに拡大する可能性がある。大いに懸念されるのが、こうした顧客ニーズに合わない不適切な販売が契約乗り換えの際だけではなく、そもそも新規顧客の募集時にも行われていたのではないかということだ。

こうした中、かんぽ生命と日本郵便は7月14日、郵便局やかんぽ生命支店からの積極的な商品提案を8月末までは行わないことを発表した。さらに、かんぽ生命の全契約者に対して、意向に沿った契約内容になっているかを確認することも明らかにした。かんぽ生命の既契約者は約2900万人もおり、不適切販売の全容解明にはまだ相当な時間がかかると見られる。

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