東京海上、米保険グループ巨額買収の狙い

6月末に小宮暁氏が新グループCEOに就任し、新たなスタート切った東京海上ホールディングス(HD)は10月3日、米富裕層向け保険グループを約3255億円投じて買収すると発表した。新体制からわずか3カ月後に明かされた米市場での巨額買収劇は、新体制でも海外事業を強化していくという明確な姿勢を強烈に印象付けた。

東京海上グループは海外M&Aを本格化させてきた2008年以降、英キルン(08年・買収金額約1100億円)、米フィラデルフィア(08年・同約4700億円)、米デルファイ(12年・同約2150億円)、米HCC(15年・同約9000億円)と先進国への大型買収を展開。今回の「ピュアグループ」(20年1〜3月予定・同3255億円)と合わせて、約12年間で2兆円超の投資になる。特に米国マーケットへの偏重ぶりは際立つ。

ピュアグループとはどんな会社か

「グループCEOへの就任以前から、(先進国だけでなく新興国も含めて)買収候補のスクリーニングを進めてきた。良い会社に巡り合ったと思っている」。10月3日、東京海上本社で行われた記者会見で小宮グループCEOはこう強調した。今回の買収対象となるピュアグループは、2006年に設立された比較的新しい企業グループで、米国で市場が急拡大している「ハイネットワース」と呼ばれる富裕層向け保険市場に特化した事業を展開している。事業形態は独特で、米国で「レシプロカル」と呼ばれる日本の共済の仕組みに類似した組織を運営し、住宅火災保険や自動車保険、動産保険などを引き受けている。レシプロカルとは、米国では株式会社や相互会社と並び、保険事業を営む第3の形態として50以上が組織されている。ピュアグループは、レシプロカル全般の業務運営(保険引き受けや損害サービス、証券発行など)のフィーとして、取扱い保険料の約20%を受け取る。これがグループ収益の大半を占める。

マネジメントフィーが事業収益の中心のため、安定的な利益が見込める。また契約者からの保険料・拠出金の多くを再保険マーケットに出再しているため、リスクを小さく抑えるビジネスモデルになっている。アンダーライティング(保険の引き受け)の基準も厳格だ。リスクが集積しないように、一つの州で全体の契約の2割以上を引き受けないことや、沿岸部や山林に近い物件などの引き受けも慎重に行っているという。2年前に北米を3つの巨大ハリケーンが襲った中でも「競合他社と比べても、(損害額などが小さく)良い成績を収めた」(小宮グループCEO)という。

巨額M&Aの狙いとは何か

東京海上HDは、15年に子会社化したHCCを通じて、ピュアグループを構成する持ち株会社と、その子会社でレシプロカルを運営するマネジメント会社やブローカー会社、損害サービス会社などを、2020年1〜3月頃を買収完了予定として手続きを進める。ピュアグループの税引後利益は、20年12月期で9500万米ドル(約100億円)程度、23年12月期で2億米ドル(約210億円)程度と予想されており、順調に行けば東京海上HDの利益に同程度の数字が上乗せされることになる。

東京海上HDの事業別利益の19年度の予想では、「海外保険」が約47%と過半を占める計画だ。2002年はわずかに3%程度で、海外M&Aを次々と成功させることで利益構造を変化させてきた。ピュアグループの買収効果によって、海外保険事業で「5割超え」も現実味を帯びている。自然災害などで大きく利益がぶれる国内損保事業と異なり、東京海上HDの海外保険事業は、買収した欧米の保険会社の利益貢献などによって、2013年度以降、毎年1000億円以上の事業別利益を上げている。19年度は過去最高の1770億円の利益を見込む。M&Aの目的である事業リスクの分散と安定的な経営基盤の確保は着実に前に進んでいる。

もう少し先を見れば、東京海上HDは「将来のグループ像」として掲げる「修正ROE(自己資本利益率)12%程度」の達成も視界に入れている。アリアンツやアクサなどグローバルトップクラスに仲間入りするためには10%台を安定的に確保したい。これは、前グループCEOの永野毅氏もかねてから言ってきたことだ。東京海上HDの18年度の修正ROEは7.2%。19年度の予想では10.4%を見込むが、今回のピュアグループの買収によって20年度には修正ROEでプラス1.2ポイントの上乗せ効果があるという。

さらに、既存の欧米子会社とピュアグループとのシナジー効果も見込んでいる。たとえば、同グループの再保険を東京海上グループのHCCやキルンなどで引き受けたり、フィラデルフィアのクラシックカー向け保険やヨット・ボート保険、自家用航空機向け保険などスペシャルティ分野の商品を、ピュアグループの富裕層顧客にクロスセルすることも可能になるという。それだけではない。米国のハイネットワース保険市場の開拓で得たノウハウを「東南アジア(の富裕層開拓)に生かす可能性もある」(小宮グループCEO)と新興国マーケットにも目を向けている。

買収金額は妥当なのか

ピュアグループは06年の設立で歴史が浅く、2018年12月期の純資産でも8700万ドル(約100億円)の企業グループだ。東京海上HDの今回の買収総額の約3255億円に対しては「高値掴みではないか」という懸念も出ている。実際、会計上の「のれん」が最大で3000億円程度発生する見込みという。ただ同グループはハイネットワース市場では3位のシェアを持つ大手で、14年〜18年の5年間の平均伸び率は、取扱い保険料で約30%、税引前利益で約40%と市場の平均を大きく上回って拡大している。しかもフィービジネスが中心のため資本負荷が小さいビジネスモデルだ。「同グループの収益性と成長性を考えると買収価格は妥当であり、のれんの減損リスクなども小さいと考えている」と小宮グループCEOは不安要素を打ち消す。

国内に目を転じれば、恒常的な自然災害リスクや中長期的に縮小が予想される自動車保険マーケットへの対応など、抱える課題は小さくない。だが、ほかのメガ損保も度肝を抜かれる今回の買収劇で、東京海上グループがグローバルトップクラスに一歩も二歩も近づいたのは間違いなさそうだ。

 

 

 

 

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